のらぼう菜 -遺伝子の特徴と自然農での活用-

2021/2/23 公開

のらぼう菜という野菜をご存じでしょうか?アブラナ科に分類され、菜の花がとてもおいしい作物です。一見、何の変哲もない菜の花ですが、実は面白い特徴があります。その特徴は自然農で育てるのに非常に適しています。

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のらぼう菜とは

のらぼう菜は種袋の解説によると『江戸中期「闍婆(ジャバ)菜」という名で幕府が配付した西洋油菜』だそうです。私は毎年栽培していますが、菜の花のほのかな苦みと茎の甘みがあり、大変おいしいです。春の味覚ですが、温暖化のせいか、最近は2月から収穫できるようになりました。

一見すると普通の菜の花のようなのですが、実は面白い特徴があります。

複二倍体

少し難しいですが、複二倍体とは複数種類のゲノム(遺伝情報)を持つ生物のことを言います。AAという二倍体とBBという二倍体の二種類の植物が交雑し、AABBというゲノムを持つ場合を複二倍体と呼びます。

のらぼう菜はまさにこの複二倍体の植物です。アブラナ科の中でハクサイ、カブ、コマツナなどの仲間(B.rapa)とキャベツ、ブロッコリー、ケールなどの仲間(B.oleracea)が交雑し、複二倍体になったものがのらぼう菜です。通常はこのような異種間の交雑は起こりにくいですが、長年の進化の過程で生み出された品種と言えます。

複二倍体ののらぼう菜は、二倍体のアブラナ科とは基本的に交雑しない特徴を持ちます。

なお、のらぼう菜は三倍体という情報もあるようですが、三倍体は子孫を残せないので誤りだと思います。ちなみに、種なしスイカは三倍体の特徴を利用したものです。

自家和合性

またまた難しい言葉が出てきました。多くのアブラナ科の植物は自家不和合性という性質を持っています。これは異なる個体の花粉でしか受精できない性質のことです。つまり、1株だけ育てても種ができません。

以前ダイコンを育てていた時に、種採り用に2株だけ畑に残しておいたのですが、花が咲いた後、強風で片方の茎が折れてしまいました。するとそれ以降、残った方の株に咲いた花からは種が採れませんでした。思いがけず自家不和合性を確認した事例です。

自家不和合性の植物は他の個体から花粉しか受け付けないため、近くに同系異種の作物があった場合、交雑の可能性が高くなります。一方、のらぼう菜は自家和合性なので交雑の可能性が低いです。

自然農でのらぼう菜を育てるメリット

自然農では、生物相の多様化とともに土の状態が年々変化していきます。そこに適した遺伝子を残していくためには、自家採種をすることが好ましいと考えています。

しかし、アブラナ科の野菜は非常に交雑しやすいため、採種をする場合には細心の注意が必要です。特に、カブ、ハクサイ、コマツナ、ミズナなど多くの野菜が同じ種類に属するため、交雑することで種特有の形質を損なってしまいます。カブや菜っ葉類に様々な種類があるのは、交雑を繰り返したためと考えられます。

一方、のらぼう菜は前述の複二倍体と自家和合性の特徴により、交雑の可能性が非常に低いです。冒頭に書いたように、江戸時代に伝えられたものが今まで形質を保存しているのはこの特徴のおかげかもしれません。

作りやすく味も良いので、自然農ではぜひ取り入れたい品種の一つです。のらぼう菜の収量を上げる方法については、こちらの記事にてまとめています。

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