自然農とは何か?|慣行農法や有機農法との違いを解説

自然農とはいったい何でしょうか?

簡単に言うと、肥料や農薬を使用せず、自然に寄り添って作物を栽培する農のスタイルです。

これだけだと何のことか分かりにくいですよね。

肥料や農薬を使う慣行農法とはずいぶん違いそう。環境にやさしそうだけど有機農法と何が違うのだろうか?そんな声が聞こえてきます。

私は自然農を10年以上実践しており、2022年からは自然農で育てた野菜の販売もしてきました。

そんな私が自然農とは何かを解説し、慣行農法や有機農法と比較して自然農の特徴を明らかにします。

この記事を読むことで、自然農とは何なのか、そして自然農とはどうあるべきかを理解でき、あなたも自然農の世界に一歩踏み入れることができますよ。

目次

自然農とは

自然農とは、川口由一さんによって体系化、普及されてきた農のスタイルです。

これは、以下の3つの原則に基づいています。

  1. 耕さない
  2. 肥料農薬を用いない
  3. 草や虫を敵としない

自然の営みに寄り添い、生態系のバランスを尊重します。具体的には、畑に外部からの資材を持ち込まず、また作物の残渣(収穫後の茎や葉など)や雑草を土に戻して、生命の循環を促します。

一般的には、肥料や農薬を使わないときちんとした作物が育たないと考えられがちです。しかし、自然農の三原則に従って健康な作物を育てることができる農家も存在します。

私も自然農の手法で小規模ながら農業を営んでいます。

次に、自然農の3つの原則について詳しく説明します。

自然農の3つの原則

自然農の畑

先ほど述べたように、自然農の三原則は、耕さない、肥料農薬を用いない、草や虫を敵としないです。それぞれについて詳しく述べていきます。

耕さない

もともと、自然界では森林、草地など、人間が耕さなくても植物たちはそこに根を張り、毎年立派に育っています。地表や地中で様々な動植物や微生物たちがお互いに影響しあい、生命の営みを繰り返しています。

自然農では、この自然界の仕組みが畑の中でも機能するよう、耕すことはしません。

なぜなら耕してしまうと生き物たちの活動の場所が破壊され、作物は肥料がないと育たなくなってしまうからです。また、肥料を追加するために再び耕す必要が出てきて、悪循環の始まりとなります。

一度耕したり肥料を入れてしまった畑でも、自然の営みに任せることで、数年経てばまた耕さずとも作物が育つ環境に戻すことができます。

不耕起栽培の詳しいメカニズムについては、下の記事をご参照ください。

肥料農薬を用いない

肥料を用いない理由は、土中の微生物が作物の成長に必要な栄養素を供給してくれるからです。

植物は水とともに栄養素を吸収します。そのため、栄養素は水に溶けている必要があります。植物の根は微生物と共生し、植物が光合成でつくった有機物(でんぷんや糖)を微生物に供給します。

微生物はこれらの有機物を利用し、土の中の無機物(リン、カリウムなど)を植物が吸収しやすい形かえて供給します。

また、微生物の中には空気中の窒素を固定し、植物の栄養源として供給できるものもあります。

これらのプロセスは作物や雑草に関わらず行われます。自然農では草を刈りますが、根は残すしておくことで、植物と共生する微生物が増え、作物が育ちやすい環境が整います。

前述のとおり、土を耕すと微生物が活動が妨げられ、作物が栄養素を吸収しにくくなります。したがって、人間が作物が吸収しやすい形で栄養素を供給する必要が出てきます。

これが肥料を使わないと作物が育たない原因です。耕さないことと肥料を使わないことは密接な関係があるのです。

自然農では、自然の営みに沿っているため、作物は健康に育ちます。健康な野菜は虫や病気に対する抵抗力が高まります。また、味が良く栄養価も高いとされています。

また、自然農には「補い」という概念があります。これは、土の養分が足りない場合に、米ぬかや油かすなどを土の上からふりかけたり、作物のそばに置くというものです。

補いは、生活のなかから出たものを畑に循環させることで、「肥料」とは区別しています。

草や虫を敵としない

自然農では、草を根元で刈って作物の周りに敷きます。草を刈るのは、作物に十分な日照を確保するためです。そして、それを敷くのは土の乾燥を防ぐとともに、虫や微生物のエサにするためです。

この方法により、微生物の活動が活発になり、そのエネルギーは作物に還元されます。草刈りは大変な作業ですが、生命の循環の一部と考えると、苦にはなりません。

自然農で健康に育った作物は病虫害には強いですが、完全に防げるわけではないです。少し虫が来たからといって、彼らを殺すことはありません。

作物を食べにくる虫もいれば、その虫を食べる虫や鳥などもいます。作物を食べる虫を除去すれば、それを食べる虫も来ないため、結局また作物を食べる虫が来ることになります。作物が食べられたら、よく観察し、食物連鎖に任せることが、自然に沿ったやり方だと考えます。

慣行農法、有機農法との違い

慣行農法とは、一般的に実施されている農法で、有機農法は化学的に合成された資材を使わない農法です。

慣行農法、有機農法、自然農の違いを簡単に表にまとめると以下のようになります。

スクロールできます
農法肥料・農薬耕うん(耕すこと)メリットデメリット
慣行農法使用する生産性、再現性が高い環境負荷が高い
有機農法化学合成されたもの以外を使用する環境負荷が低い有機を表示するには認証が必要
自然農使用しないしない自然の力を活かす生産性、再現性が低い

では、慣行農法と有機農法の特徴を述べ、自然農との違いを比較していきます。

慣行農法の特徴

化学肥料、化学農薬を使用する

慣行農法は化学肥料や化学農薬を使用することを前提とした農法です。これらの化学製品を使用する目的は、生産性を安定させることです。つまり、栽培の再現性を高めるということです。

作物の成長を促進するために肥料を投入し、害虫による被害を低減するために農薬を使用することで、安定的な生産を実現しています。

また、肥料や農薬の種類、量、使用頻度なども作物ごとに体系化されており、それに従って栽培することで、経験の浅い農家でも比較的容易に安定した生産を行えます。

しかしながら、化学物質を使用することで、環境や生態系への悪影響が懸念されます。

農薬散布

生産効率が高い

肥料、農薬に加え、広い面積を一気に耕すことのできるトラクターや、栽培管理や収穫を行うための大型機械を導入することで、少ない労力で大規模な生産を行うことが可能になります。

さらに、ビニールハウスなどの施設を利用することで、温度や水分量などを管理することができ、季節によらず栽培することも可能となります。

その結果、非常に高い生産効率を実現することができます。

現在流通する野菜の大部分を担う

このようにして、慣行農法として安定的な生産方法が確立されているおかげで、現在流通している野菜の大部分は慣行農法が担っています。これにより、私たちはいつでも新鮮な野菜を安価で購入することができます。

私を含め自然農を志す人々がそれに挑戦できるのは、人々が生きていくのに必要な作物が慣行農法により生産され供給されているおかげであることを忘れてはいけません。

有機農法の特徴

認められた範囲の肥料、農薬を使用する

有機農法では、化学的に合成された肥料、農薬等の資材を用いず、畜糞や植物由来の堆肥などを肥料として畑に投入します。これらは、栽培する作物の養分として投入する場合と、土中の微生物の活性化のために投入する場合があります。

農薬についても天然由来の成分であれば使用できるものがあります。化学合成されていない資材を使うことで、環境への負荷を低減する狙いがあります。

認証制度がある

有機農法については、有機JASの認証制度があります。これは、認証機関に認証された事業者のみが、有機JASマークを貼ることができ、「有機」や「オーガニック」と表示することができる制度です。

有機JASマーク
有機JASマーク

肥料や農薬は有機農産物の日本農林規格で使用が認められたものに限られます。その中には天然由来の硫黄粉剤やスピノサド水和物といった農薬も含まれます。

農薬や有機に対する考え方は人それぞれだと思いますが、天然由来であろうが殺虫効果のある毒物を使用してもなお、有機と表示することができるのは、個人的には違和感があります。

有機農業の面積は全体の約0.5%

有機農業が実施される農地面積は平成29年度で全体の約0.5%と農水省から発表されています。これは有機JAS認証を取得していない有機農業も含まれています。

有機農業では慣行農法ほど体系化されていません。収穫量の安定性や再現性が高くないことから、食品の安全や環境に対する意識が高い一部の農家のみが実施している結果であると考えます。

自然農は有機農法の中の特殊な形態とも捉えることができます。有機JASで認められている肥料や農薬すらも使用しない農法となります。

次は、自然農の特徴について述べます。

自然農の特徴

自然農は大規模化が困難

自然農では様々な種類の野菜を栽培する少量多品目のスタイルを取ることがほとんどです。どの季節もバラエティ豊かな野菜たちが畑に植えられています。

単一の作物を大量に栽培すると、そこに生息する生き物たちの種類は限定され、生態系のバランスが崩れてしまいます。一方、多くの種類の作物を植えることで、多様な生き物が共存し、相互に影響しあいながら生態系を形成していく自然の姿に近づけることができます。

そのような環境では大型の機械を入れても効率を上げることができないので、基本的には手作業がメインとなります。そうすると、自ずと耕作できる面積は限られてきます。私の感覚ですと一人当たり4~5反(約4,000~5,000m2)が限度ではないでしょうか。

自然農の畑(ナス)

自然農の野菜はほとんど流通していない

有機農業の耕作面積は、前述した通り全体の0.5%ほどしかありません。自然農となれば、その中のさらにごくわずかな割合となります。

前述したように自然農は一人当たりの耕作面積が小さく、面積当たりの収穫量も他の農法に比べ劣るため、自然農のみで生計を立てるのが難しい現実があります。したがって、自然農を生業として志す人は非常に少なく、市場に自然農の野菜が出回ることはほとんどありません。

私は自然農の野菜の販売も行っていますが、生計を成り立たせるほどの収入にはまだまだ程遠いです。

そのような状況にあって、自然農に取り組む意義は一体どこにあるでしょうか。

自給的な農のスタイルに最適

四国で専業農家として自然農を営まれている沖津一陽さんは、その著書「自然農に生きる」の中で、こう語られています。

「自然農は自給でしょう」という言葉に、いささか浮世離れした軟弱さや愚かしさを感じるのです。まるで自然農により農業に答えを出すことを避けているようにさえ思えるのです。

(中略)

皆が喜んで使ってくださるような農産物を十分収穫し、少なくとも生活費を稼ぎだせるほどの生産性がなくて、何が自然農でしょう。

沖津一陽著 「自然農を生きる」

現在、自然農により生活費を稼ぐことができていない私にとって、この言葉は心に深く響きます。将来的には自然農で食べていけるようになりたいと考えています。

しかし、私はあえてここで言います。「自然農は自給でしょう」と。

別に沖津さんに喧嘩を売りたいわけではありません。

私は自然農の野菜を求める人が、それを簡単に手に入れられる世の中にしたいと考えています。そのために私は自然農の野菜を生産しています。しかし、私一人が頑張っても、生産量はたかが知れています。

沖津さんのような優れた自然農の農家が増えれば、自然農の野菜の流通量が増えるかもしれません。しかし、その実現は容易ではないでしょう。

自然農で生計を立てることがどれほど困難かは沖津さん自身も語っていますし、私も実感しています。

そのため、自然農を始めるのに最適なきっかけは、家庭菜園や自給的な農業だと思います。週末の農作業だけで、家族が必要な野菜を自然農で育てることは難しくありません。また、できなかったとしても生活に大きな支障はありません。

自然農の輪を広げる

自然農は本当にすばらしい体験です。草や虫などの生命の循環の中に身を置き、自然とのつながりを直接感じることができます。その中で得られた収穫物は、まさに生命の恵みとしていただくことができます。この経験は一度味わうと抜け出せなくなるほど魅力的です。

私はできるだけ多くの人に自然農のすばらしさを知ってもらいたいと考えています。そして、多くの方に自然農を実践してもらいたいです。そのためには参入のハードルを下げる必要があります。そうすることで、日本国内で生産される自然農の野菜の量も増えていくと信じています。

このブログを通じて、自然農の本質や始め方、栽培に必要な情報などを発信していきます。他の記事もぜひご参照いただければと思います。

まとめ

自然農とは何かについて解説しました。

自然農とは、耕さず、肥料農薬を用いず、草や虫を敵としないを原則とした農のスタイルです。

慣行農法との違いは、生産効率にあります。自然農は生産効率を追求せず、自然の営みを重視します。

自然農は有機農業の一種ですが、有機農業で認められている肥料や農薬さえも使用しません。

自然農は農業として生計を立てることも可能ですが、もっと広く普及させるためには、家庭菜園や自給的な農業から始めて、多くの人が気軽に取り組めるようにすることが重要だと考えています。

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