自然農の重要な概念の一つに亡骸の層があります。ここでは亡骸の層について、わかりやすく、そして少し科学的に解説します。
亡骸の層とは
自然農の基本原則として、「草や虫を敵としない」というものがあります。だからと言って草を放置しておくと、作物は草に埋もれまともに育ちません。そこで、草を刈ってその場に敷いていきます。これを草マルチと言ったりします。
草マルチは土の表層を保護することで、乾燥を防ぎ、虫や微生物など様々な生き物の住みかとなります。草はそれらの生き物に食べられることにより、細かく分解されていきます。またそこで生きる生き物たちが命を全うした後には、同様に分解されていきます。こうしてできた層を亡骸の層といいます。
自然農を数年続けた畑では、表層から数cmに黒っぽくなっており、これが亡骸の層です。亡骸の層は養分に富み、微生物も豊富にいるため、肥料をやらなくても作物が育ちます。亡骸の層をしっかりと育てることが自然農の成功のカギとなりますが、耕すと亡骸の層を破壊してしまうことになります。
栄養素で考える亡骸の層
植物が成長するためには、三大栄養素(窒素、リン、カリウム)とカルシウム、マグネシウム、硫黄、その他微量元素が必要と言われています。これらのうち、窒素とリン以外は岩石の中に含まれます。土の中には岩石が細かくなった成分が含まれるため、不足することは無いと考えられます(植物が吸収できる形になっている必要があります)。
窒素とリンは岩石にほとんど含まれません。これらを供給するのが亡骸の層の役割となります。動植物の体には窒素やリンが多く含まれるからです。窒素は根粒菌などが空気中の窒素を土の中に固定化することができます。一方リンは生き物を介した循環による供給が大部分となるため、亡骸の層が非常に重要と言えます。
しかし、このような考察は、自然に起こっている現象を、人間が知っていることを使って解釈しているだけで、実際に土の中で何が起こっているかは、ほとんど何もわかっていないに等しいと考えます。自然に沿ったやり方をすることで、科学的に解明されていないことも含めて、うまくいくのだと思います。
地球の進化のプロセスと同じ
生命は30億年前に海の中で誕生しましたと言われています。陸地は岩石のみで生命が住める環境ではありませんでした。海の中の原始的な植物が光合成を行うことにより、酸素が放出され、オゾン層が形成されました。オゾン層が太陽からの紫外線を吸収することで、陸地も生き物が住める環境となりました。こうして4億年前にまず植物が陸地に上陸しました。この植物が有機物やリンを陸地に持ち込んだことにより、次第に大型の植物が生息できるようになり、動物も上陸できるようになりました。
これらの進化までは数億年という年月がかかっていますが、似たようなプロセスは現代にも見ることができます。それは火山の噴火により溶岩に覆われてしまった場所です。溶岩がむき出しだった土地が、どのようにして生命あふれる場所に変わっていくかを見ることができます。三宅島では数十年のプロセス、富士山では数百年のプロセスを見ることができます。
少し話が壮大になってしまいましたが、畑で亡骸の層を大事にするということは、上記の生命の進化のプロセスをたどることと言えます。このようなことを念頭に畑に向き合うことで、自然農の理解が進むのではないかと思います。