この記事では、自然農のメリットとデメリットを紹介します。
自然農は以下の特徴があります。
- 肥料や農薬を使用しない
- 耕さなくてよい
- 健康に良い
- 環境にやさしい
本当にそんな良いことばかりなの?もしそうなら、自然農はもっと広まってるんじゃない?
自然農にはメリットがたくさんありますが、デメリットももちろんあります
自然農を10年以上実践してきた経験から、この記事では自然農のメリットとデメリットを詳しくお話しします。
自然農を始めた後に、「こんなデメリットがあるなんて知らなかった」と後悔してほしくないので、最後までしっかり読んでくださいね。
自然農の概要
自然農とは、川口由一さんにより提唱された農のスタイルです。耕さない、肥料農薬を用いない、草や虫を敵としないを原則とし、自然に寄り添って作物を栽培します。
詳細はこちらの記事をご参照ください。
自然農のメリット
自然農には以下の5つのメリットがあります。
では、それぞれのメリットを一つずつ見ていきましょう。
安心安全な野菜を入手できる
最初のメリットは「安全安心の野菜を入手できる」ことです。
自然農は肥料や農薬を一切使用せずに作物を栽培します。
野菜に残った農薬が気になる人でも、自然農の野菜なら安心して食べらるね
肥料を使うと良くないことがあるの?
肥料を使うことにもデメリットがあります
肥料には作物の成長に必要な窒素成分が含まれており、肥料を過剰に与えると、作物に窒素成分がたまってしまいます。これを専門用語で硝酸態窒素といいます。
硝酸態窒素が多すぎると健康や環境に悪い影響があることが懸念されます。その点について、詳しくは別の記事で説明します。
自然農では、人が肥料を与えずに、自然の力で栄養分が野菜に供給されます。なので、作物は必要な分だけの窒素を吸収し、作物中に蓄積する硝酸態窒素がとても低くなります。
自分は肥料や農薬を使わないけど、自分が畑を借りる前に使われてたら大丈夫かな?
農薬が人体に影響を及ぼすほど畑に残ってしまうことはありません。また、化学肥料は水に溶けやすいため、こちらも畑に残ることを心配する必要はありません。
有機肥料の場合は化学肥料よりも長期間残りますが、自然の循環が繰り返されることで、次第に環境が整っていきます。
注意が必要なのは、化学薬品により土壌消毒をされている場合です。土の中の多くの微生物が死滅してしまっているので、生態系が回復するまでにかなりの時間がかかります。このような畑は避けた方が賢明です。
肥料や農薬を使わず、自分の手で育てた野菜は、安心して食べることができます。
自然農の野菜はおいしい
二つ目のメリットは「自然農の野菜はおいしい」ことです。
おいしさは人によって感じ方が変わりますが、野菜のおいしさは鮮度、品種、農法が影響します。
おいしさに最も影響するのは鮮度です。
新鮮な採れたての野菜は古くなったものより、もちろんおいしいですよね
カボチャやサツマイモなど、貯蔵したほうがおいしくなるものもあります
品種もおいしさに影響します。品種とは、イチゴで言うと、「とちおとめ」や「あまおう」などの種類のことです。好みの世界なので、自分のお気に入りの品種を見つける楽しさもあります。
鮮度や品種って、自然農とは関係ないよね?
はい。ここまでは、野菜のおいしさの一般的なお話でした
農法の違いより、新鮮さや品種の違いの方がおいしさへの影響が大きいので、先にお話ししました
ここからは、なぜ自然農の野菜がおいしいのかを説明します。
肥料を用いると、野菜はそれを吸収して成長するので、当然味に影響が出ます。有機栽培で牛ふん堆肥等の動物性の肥料を多用した場合に、野菜が品目によらず肥料の味になってしまうこともあるようです。
自然農では肥料を用いないため、それぞれの作物の本来の味がします。「雑味がない」や「滋味深い」といった表現が当てはまります。どんな味かは、言葉で説明するより、実際に食べてもらうのが一番ですけどね。
そして、安心安全のところでお話しした硝酸態窒素は、苦みやえぐみになるので、これが少ないこともおいしさにつながります。
自然農で育てた野菜は何でもおいしいの?
そんなことはありません
自然農を始めたばかりの頃は、自然の循環ができるまでの間、無肥料では十分に育たないことがあります。そのような野菜は苦みがあったり、本来のおいしさを発揮できないことがあったりします。
でも、心配しないで大丈夫です。自然の力に任せ、土が豊かになってくれば、とびきりおいしい野菜が採れるようになりますよ。
自然農の野菜のおいしさについてさらに詳しく知りたい方は、こちらの記事も読んでみてください。
自然農の野菜は栄養のバランスが良い
3つ目のメリットは「栄養のバランスが良い」です。
野菜の栄養バランスは、科学的な成分分析により客観的に評価することができます。
株式会社メディカル青果物研究所(デリカフーズグループ)では、Brix糖度・ビタミンC含量・抗酸化力(植物ストレス耐性力/DPPH法)・硝酸イオン含量(前述の硝酸態窒素)の4項目を測定し、野菜の健康状態を診断しています。
奇跡のリンゴでおなじみの木村秋則さんが監修する「自然栽培」という雑誌があります(現在は休刊中)。そのVol.7に、自然栽培で育った作物の分析結果が掲載されていました。
全国平均値に比べ、抗酸化力が高く、硝酸イオンが低いという結果でした。また、ほうれん草など作物によっては、ビタミンCも全国平均を大きく上回っていました。
難しい話はさておき、自然農の野菜は栄養のバランスが良いということが、科学的に実証されつつあるということです。
心も体も元気になる
4つ目のメリットは、「心も体も元気になる」です。
畑での作業は適度な運動になります。日ごろの運動不足が気になっていませんか?週末の農作業はとても健康的です。
また、太陽のもとで作業をすることで、脳内物質であるセロトニンが分泌されます。セロトニンは脳を活性化したり、ストレスを軽減させる作用があります。
昼間にセロトニンが多く分泌されると、寝つきが良くなりの睡眠の質が向上すると言われています。実際、私も農作業をした日の夜は、バタンキューで寝てしまいますね。
さらに、適度な紫外線を浴びることでビタミンDが生成されます。ビタミンDは骨を丈夫にしたり、免疫力が増加したりする効果があります。
単純作業や日光浴の効果は分かったけど、自然農に特有の効果はあるの?
もちろん、あります
自然農はほぼすべての作業を、機械を使わずに手で行います。草整理や苗の植え付けなど単純作業の繰り返しになります。
単純作業には右脳を活性化する働きがあります。左脳でごちゃごちゃ考えずに、自然と「今ここ」に集中するようになります。
そして、自然農はさらに生き物たちとの触れ合いが加わります。自然に生える草花やそこで活動する虫たちを見ているだけで癒されます。草一本生えていない、きれいに整備された畑ではなかなか味わうことができません。
自然とのつながりを感じ、自分もそのつながりの中に身を置いているという感覚を得ると、日常のストレスから解放され、とても満たされた気分になります。
環境にやさしい
メリットの最後は、「環境にやさしい」です。
農薬は虫や病気の被害を防ぐするために使用します。しかし、その毒性により駆除しようとする以外の多くの生き物たちも殺してしまいます。その結果、畑の生き物の多様性が失われていきます。
また、肥料を使用すると、余剰になって栄養分が雨や地下水で流され、川や海に流れ着き、富栄養化という問題の原因となります。富栄養化とは、過剰な栄養分により特定のプランクトンが異常に増殖し、生態系のバランスが崩れ、水質が悪化することです。
さらには、肥料に含まれる成分から、一酸化二窒素のような温室効果ガスが発生することも問題となります。
自然農は、肥料農薬を用いないため、これらの問題とは無縁です。
自然農の畑の中には、様々な生き物たちが暮らしています。子どもの頃に図鑑でしか見たことのなかったような虫を発見することもあります。
畑の中でも外でも、豊かな生態系を維持するために、自然農は重要な役割を果たします。
自然農がそんな役割を果たすためには、たくさんの人が自然農をやる必要があるね
ここまでは、自然農のメリットを取り上げましたが、当然デメリットもあります。ここからは、デメリットについてお話しします。
自然農のデメリット
自然農のデメリットとして、以下のものが挙げられます。
面積あたりの収穫量が少ない
自然農のデメリットの1つ目は収穫量が少ないことです。
肥料を与えず自然の力だけで育てるため、肥料を使う農法に比べて、同じ面積から得られる収穫量が少なくなります。
長年、無肥料栽培を続け、土の中の環境が理想的な状態であれば、慣行農法と変わらない、あるいはそれ以上の収穫量を得られることもあります。ですが、そこまで到達するのは簡単ではありません。
肥料や農薬を用い、トラクターなどの大型機械を使う慣行農法では確かに多くの収穫が得られます。しかし、そこに投入されたエネルギーはどれくらいになるでしょうか?
肥料や農薬、大型機械を作るための材料、生産する工場、製品の輸送、そしてこれらの工程に携わる人たちの労力。これらのエネルギーがすべて畑に投入されて初めて効率的な農業が可能になります。
大規模農業のエネルギー効率はあまり良くないんだね
一方、自然農では畑の中にあるものと、そこで作業するわずかな労力。これだけで作物が得られます。
面積あたりの収穫量は劣りますが、投入エネルギーあたりの収穫量は自然農の方が断然大きくなります。
自分たちが必要とする収穫物が得られれば良しとする。つまり「足るを知る」ことが重要です。
「もっともっと」と利益を追求していくことで、かえって豊かさを失っていくことを忘れてはなりません。
形や収穫時期が揃わない
デメリットの2つ目は「形や収穫時期が揃わない」です。
大規模に栽培し、市場や農協に出荷する場合、形や大きさなどが定められた規格に収まっている必要があります。そして一斉に収穫して出荷するために、成長のスピードも揃えないといけません
このため、畑の中の環境をできるだけ均一に整え栽培していく必要があります。
一方、自然農では自然に任せるため、同じ畑の中であっても場所によって環境は様々です。そうすると、作物の生育の仕方も場所によって変わってきます。
なので、自然農は規格に収まった野菜を大量に収穫するのには全く向きません。
しかし、自給的に自然農を実践するなら、これはデメリットになるどころか、メリットにもなります。
成長のスピードがばらばらであれば、収穫時期がずれます。すると、同じ時期に種をまいても、長い間収穫できるようになります。自分で消費するのに一斉に収穫できてしまったら、かえって困ってしまいますよね。
また、形がバラバラなのも野菜の個性として楽しむことができます。
方法が明確化されていない
デメリットの3つ目は「方法が明確化されていないこと」です。
川口由一さんにより3つの原則を基本として体系的にまとめられていますが、何をすれば、または何をしなければ自然農と呼んでいいという決まりがありません。
また、自然農には有機JASのような認証制度がありません。
例えば、「補い」として米ぬかを使用する場合、「コイン精米所でもらってきた米ぬかは農薬が含まれているかもしれないけど、自然農で使用してもいいのか」という疑問が浮かびます。
「補い」とは土の養分が足りない場合に、米ぬかや油かすなどを土の上からふりかけたり、作物のそばに置くというものです。肥料とは区別されます。
これには絶対的な正解は無く、「農薬が残っているリスクはあるがそれも納得して使う」や「農薬のリスクは許容できないので、信頼できる米農家から入手する」といった選択肢が考えられます。
理想的には、自然農の稲作を自らやって、そこで得られた米ぬかを使用できれば最高ですが、なかなかそこまでできる人は少ないと思います。
自然農の方法はそれぞれの農家に任されているとも言えます。
畑の状態はそれぞれの畑によって違うし、同じ畑の中でも場所によって変化します。
野菜の栽培において、作物の状態や、土の状態、生えている草などから応じ方を変えていく必要があります。
そのように試行錯誤した結果、立派な作物が収穫できた時は、ほんとうに大きな喜びを感じることができます。
上手くいく方法を探求するおもしろさがあるね
手間がかかる
デメリットの最後は「手間がかかる」です。
自然農は自然に任せるんだから、手間はかからないんじゃないの?
自然農といっても、ほったらかしの放任栽培では、なかなかうまくいきません
もっとも大変なのは、夏場の草整理です。夏場の草の成長スピードは物凄いです。
作物が成長する以上に周囲の草が大きくなったら、草に埋もれてしまい、まともに育たなくなってしまいます。
なので、草がある程度の高さになったら、刈って畝に敷いていく作業が必要になります(これを草マルチといいます)。
その他、種まきや苗の定植、収穫など、ほとんどを手作業で行うので、畑の規模が大きくなっていくほど、手間がかかるようになります。
しかし作物と同じ目線で作業を行うことで、作物との距離が近くなります。その際に、ちょっとした異変に気付いたり、たくましく成長する作物の姿に感動したりできます。
大規模な機械でやる作業ではなかなか味わうことのできない体験ができますよ。
自然農のメリットを活かせるのはこんな人
ここまで、自然農のメリットとデメリットを見てきました。
それらをふまえると、自然農のメリットを活かせる人はこのような特徴になります。
- 安全安心な作物を自らの手で作りたい
- 作業効率や収穫量の多さを追求しない
- 自然や生き物が好き
- 決まったやり方に従うより、自分でいろいろ試したい
- 手間を惜しまず、コツコツと作業ができる
あなたはいくつ当てはまりましたか?
自然農のデメリットも、上の特徴に当てはまる人であれば、メリットに変わります。
ぜひ自然農に挑戦してみてくださいね。
まとめ
自然農のメリットとデメリットを解説しました。
メリット
デメリット
デメリットの項目も、それを受け入れられる人にとってはメリットに変わります。
これらを理解したうえで自然農に挑戦したいただきたいと思います。