自然農の自家採種 メリットとデメリット

自然農では自家採種が基本と言われています。しかし、自家採種は難しい、面倒くさいと思われる方も多いと思います。本記事を読むことで、自家採種のメリットとデメリットを整理し、自家採種を行う価値があるか判断できるようになります。

目次

自家採種のメリットとデメリット

自然農では圧倒的に自家採種がおすすめです。しかし、メリットだけでなく、デメリットもあります。それらを理解することで、自分に適した自家採種を行うことができます。では、さっそく自家採種のメリットとデメリットを見ていきましょう。

メリット

  • 種代がかからない
  • 自家採種を繰り返すと自分の畑(=自然農)の環境にあった遺伝子を選抜できる
  • 自分の好みの形質を選抜できる
  • 作物に愛着がわく

デメリット

  • 種が完熟するまでの期間、畑を占有する(作物による)
  • すべて種から育てる必要がある。(作物によっては苗を育てる必要がある)
  • 交雑する恐れがある
  • 近交弱勢

では、それぞれの項目を詳しく見ていきましょう。

メリット

種代がかからない

これは最もわかりやすいメリットです。自分で種を採るので、種代がかかりません。ソラマメのような大粒の種や、珍しい野菜は非常に高価である場合があります。そのような種を自分で採種できれば、非常に経済的です。

自然農の環境に合った遺伝子を選抜できる

自然農を行う上で、最も重要なのが環境に適応した遺伝子の選抜となります。市販の種は慣行農法で育てられていることが多いです。肥料を与えられる環境で良く育つように適応していると考えられます。このような種を自然農で栽培すると、養分を十分に吸収できずうまく育たないことがあります。

しかし、その中でも比較的よく育ったものがあれば、その個体を残しておき採種することで、肥料を与えられなくても育ちやすい遺伝子を残すことができます。これを数世代繰り返すことで、自然農に適した作物に変わっていきます。

自然農の畑に転換してから数年かけて、次第に畑の環境の生態系が豊かになっていきます。それに伴い土の質も変わってきます。このような中で採種を続けることで、作物の生育が毎年の土の変化に追従することができます。

なお、野口種苗では品種によっては無肥料栽培の種も売られています。このような種はいきなり自然農の畑に降ろしても、はじめから上手くいくことが多いと思います。私は白オクラ、アロイトマトなどの無肥料の種を購入し、良い成果を上げています。

好みの形質を選抜できる

固定種の場合、F1ほど形質がそろわず、味、形、成長速度などにばらつきがあるのが特徴です。その中で自分の好みの形質のものから採種を続ければ、次第にその形質が固定化されていきます。同じ種から始めても、育てる農家さんによって次第に形質が変わっていきます。自分のオリジナル野菜と言ってもよいと思います。

愛着がわく

自家採種を続けることで、自然農に適応し、自分好みの形質になるので、代々つないできた種は、かけがえのない宝となります。自分で採種した種を播いて、発芽した時は毎回感動します。

デメリットと対策

自家採種を行うことはメリットだけでなく、デメリットも存在します。しかし、その特性をしっかりと理解し、適切に対応することで、克服することは可能と考えます。

種が完熟するまでの期間、畑を占有する

作物の種類によっては、採種するためには、収穫の時期からさらに畑に残しておく必要があるものが多くあります。例えば秋播きのダイコンは冬の間に収穫するので、採種しない場合には春に次の作物を植えることができます。しかし、自家採種を行う場合には、6月ごろまで残しておく必要があり、その期間は次の作物を植えることができません。

この対応として、採種期間も考慮した作付計画を立てる、採種専用の畝を作り、そこに移植するなどが挙げられます。また、どうしても畝の利用効率を上げたい場合には、ナスやキュウリのような果菜を選べば、収穫期間が長いので、その期間中に完熟させれば畑を占有する課題は回避できます。またトマトのように完熟してから収穫するものは、収穫=採種となります。このような野菜を選択することで、自家採種のデメリット回避することができます。

すべて種から育てる必要がある

自家採種した種から育てるには、品種によっては苗を作る必要があります。自家採種を行わない場合には、夏野菜などは苗を購入することで簡単に作付けすることができます。

自分で苗を育てるには、ある程度の技術と慣れが必要になります。下の記事に比較的簡単にできる育苗方法をまとめています。

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交雑の恐れがある

自家採種のデメリットとして、交雑のリスクがあります。せっかく自分の好みの形質をつないでいても、近くに同じ品目で別品種の野菜を育てていたりすると、交雑して形質が変化してしまう可能性があります。

最も交雑しやすいのは、カブやコマツナなどのアブラナ科の野菜です。自家不和合性といって、他の株の花粉でしか受粉しにくいため、近くに別の種類のアブラナ科の野菜があると、簡単に交雑してしまいます。また、トウモロコシやホウレンソウのような風媒花(風が花粉を運んで受粉する)も交雑しやすいです。スイートコーンの近くにポップコーンがあって交雑してしまうと、固くて食べられなくなったりします。

交雑を防ぐには以下の方法があります。

  • 近くに同品種の野菜を植えない
  • できるだけ多くの株数を植え、その中心部から採種する
  • 人工授粉(上級者向け)

私はアブラナ科はみやまこかぶとのらぼう菜のみを育てています。のらぼう菜は遺伝子が複二倍体という特殊なものなので、ほとんど交雑の心配がありません。みやまこかぶはとてもおいしいので、他のアブラナ科野菜をあきらめてでも自家採種を行っています。

近交弱勢

デメリットの最後として、近交弱勢というものがあります。これは、遺伝子が近いもの同士の交配を続けることで、悪い形質が現れるというものです。対語として雑種強勢があり、F1はこれを利用したものです。少ない株数で自家採種を続けると、近交弱勢になる可能性が高くなります。

近交弱勢を避けるには、できるだけ多くの株数を育て、多くの株から採種します。狭い畑の場合は難しいので、その場合には数年に一度、市販の種を少し混ぜて播きます。シードバンクから種を借りることも有効です。

いずれにせよ、遺伝的多様性を保つことで近交弱勢を回避できます。

登録品種に注意

登録品種は許可なく自家採種することが禁じられているので注意が必要です。固定種の種であれば、ほとんど登録されていないので、自由に種を採ることができます。品種登録されているかどうかは、農林水産省の「品種登録データ検索」で調べることができます。

まとめ

自家採種のメリットとデメリットをまとめました。慣れないと難しい部分もありますが、自家採種を続けることで、無肥料でも育ちやすくなるだけでなく、自分だけのオリジナル野菜を育てることができます。自家採種も含めた固定種野菜の育て方は、下の書籍に詳しく書かれています。野口種苗の野口勲氏と、自然栽培を続け、野口種苗に無肥料種子の供給も行っている関野幸生氏の共著です。

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