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「自然農」という言葉を聞くと、多くの人がこうイメージします。
「自然のまま、何もしないで野菜が育つ農法でしょ?」
しかし、実際に「何もしない(完全放置)」で野菜を作ろうとすると、ほぼ間違いなく失敗します。あっという間に背の高い草に覆われ、野菜は消滅してしまうからです。
自然農の実践者は、耕しはしませんが、鎌を持って畑に入り、適度に草を刈ります。
「耕さない(不耕起)」のに、なぜ「草は刈る(攪乱する)」のか?
この一見矛盾する行動の裏には、「中程度攪乱仮説(Intermediate Disturbance Hypothesis)」という、生態学の重要な法則が隠されています。
今回は、この理論を使って、自然農の「草管理の正体」を解き明かします。

「攪乱(かくらん)」とは、台風、洪水、山火事、あるいは人間による耕起や草刈りなど、環境を変化させる出来事のことです。
そして、この仮説の結論はシンプルです。
「攪乱が『中くらい』の時に、生物の多様性は最大になる」
なぜそうなるのか、畑を例に3つのパターンで見てみましょう。
つまり、自然農で草を刈るのは、「放置すると起こる『特定の草による独占』を防ぎ、野菜たちにも席を用意してあげるため」なのです。
ここで少し、植物たちの「生き残り戦略」について触れておきましょう。
畑に生える植物は、大きく2つのタイプに分けることができます。
生態学では、前者を「r戦略」、後者を「K戦略」と呼びます。
この違いを知っていると、なぜ草刈りが必要なのかが、より深く理解できます。

この「r戦略」と「K戦略」の視点を持つと、畑で何が起きているかが見えてきます。
植物の世界には、「遷移(サクセッション)」というルールがあります。
更地(裸地)からスタートした土地は、放っておくと以下のように変化していきます。
私たちが育てたい「野菜」は、ステップ1(r戦略の世界)の住人です。
しかし、自然の力は強力で、常にステップ2、3へと進もうとします。
もし草刈りの頻度が低く攪乱を弱めると、畑はすぐにステップ2(K戦略の世界)へ移行します。こうなると、r戦略である野菜は、K戦略の圧倒的なパワー(高さと根張り)に場所を奪われてしまいます。
自然農とは、草刈りという「攪乱」によって、森へ進もうとする自然の動きにブレーキをかけ、常に「ステップ1(一年草の世界)」に留まり続ける技術と言い換えることができるのです。
中程度の攪乱によって「植物の多様性」が高まると、どんないいことがあるのでしょうか?
単に「いろんな草が生えていて綺麗」というだけではありません。実利的なメリットがあります。
多様な植物が生えていると、それを食べる多様な虫が集まり、さらにその虫を食べる「天敵(カマキリ、クモ、カエル、ハチなど)」が住み着きます。
「中程度の攪乱」は、野菜を守る「パートナー(天敵)」に住んでもらうための環境づくりでもあるのです。
では、具体的にどのくらい刈れば「中程度」になるのでしょうか?
これはマニュアル化できませんが、原則があります。
「一律に刈るのではなく、調和するように刈る」
機械ですべてを均一になくすのは「強攪乱」です。
自然農では、植物の種類や場所を見て、刈る・刈らないを判断します。
このように、「独占しそうな草の主張をなだめ、共存できる草を活かす」という匙加減こそが、中程度攪乱を維持するポイントなのです。

「自然農」という名前から、私たちは「自然に任せる=放置」と考えがちです。
しかし、生態学的に見れば、人間は畑という生態系における「調整役」です。
その間にある、野菜と多様な生命が共存できる「中庸(ちゅうよう)」の一点。
そこを維持するために、私たちは鎌を振るうのです。
「今日はどのくらい攪乱を与えようか?」
そんな視点で畑に立つと、草刈りが単なる作業ではなく、生態系と対話するクリエイティブな時間に変わるはずです。
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